私が接見禁止処分をくらって、
半年ほど大阪拘置所の独居で生活していた時の出来事だ。
拘置所で独居という者は、何か雑居で生活できない理由がある
普通でないから独居に入れられる。普通でない人間が生活しているから、
とんでもないことが起こる。世間一般で考えられないことが日常的に起こる

「イヤだ、イヤだ」
と3つ隣から声がする。まるで子供がだだを、こねているようだ
「メガネをはずせ」
と看守が言う。
「これはオレのメガネだ」
「メガネをはずさな、弁面、行かせへんぞ」
と看守は言う。弁面とは弁護士面会のことだ。
「もう弁護士さん待ってはるやないか。メガネをはずせ」
「イヤだ、イヤだ。このメガネをしていく」
「岡部、折角、先生来てくれているのに早くメガネをはずせ」
名は岡部というのか…
「弁護士は俺が呼んだんだ」
「早くメガネをはずしなさい」
「イヤだ、イヤだ」
「そしたら弁護士さんに帰ってもらうぞ」
「イヤだ、弁護士さんに会いたい、弁護士さんに会いたい」
メガネぐらいさせてやってもいいではないか。どこがいけないのか。
「メガネ無いと何も見えない」
「とにかくそのメガネをはずさない限り、弁護士さんとは面会させません」
と看守は言う。看守は看守でも一般の看守とは違う。
腕に金のラインが入っている係長クラスだ。
「弁護士に会いたい、会うのは俺の権利だ」
確かに岡部の言うことは間違っていない。弁護士と接見することは被告人の
権利だ。
「そのメガネを取りなさい」
メガネ、メガネと係長は言うが、そんな危険なメガネなのか?
「メガネを仮出したのにまだ上がってこない、だからこのメガネをしていく」
と岡部は言う。
「ダメだ、外しなさい、そんなメガネ…」
そんなメガネとは…人のメガネにケチをつけるとは何事だ。
「イヤだ、イヤだ」
「もう弁護士さんに帰ってもらうぞ」
「イヤだ、俺の権利だ」
「そしたらそのメガネを外せ、そしたら弁面に行ける」
どうやら岡部はメガネを2つ持っていて、1つは仮出し中らしい。
「そんなメガネしたまま弁護士に会わす訳にはいかん」
「イヤだ、イヤだ」
そんなメガネ?
「弁護士に会いたい、会いたい」
「メガネを外せ」
「イヤだ」
「外せ、そんな紙で作ったメガネ」
え…紙、紙で??? 作った???どんなメガネだ…

「外せ、そんなもん」
係長もしまいに怒る。
「イヤだ、イヤだ、弁護士に会いたい」
「出てこい」
岡部は部屋から出ようとしない。
「さっさと、メガネを外して出てこい」
岡部はメガネを仮出しているのが遅いので
弁護士面会に詫つけて、
早くメガネを仮出そうとしているのだ。
そのために紙でメガネを作り、それをかけて行くと言い出した。
私も変わった人間を知っているが、
拘置所でメガネを作ったという話は聞いたことがない。
そんな奴は初めてだ。
「メガネを外せ、もう最後やぞ、弁護士さんに帰ってもらうぞ」
「イヤだ」
「ほんなら外せ、そのメガネ」
岡部はしぶしぶメガネを外して弁面に行った。
一体、どのようなメガネを作ったのか見せてもらいたかった。
