水虫・陰金・ツメ水虫 ①

刑務所では様々な感染症の予防にも努めなければならない。

危険地帯は随所に潜んでいる。

 

まず風呂で注意を怠ってはならない。

あらゆる危険が潜んでいる。

 

風呂場といえば、リラックスできる場所という印象だが、

娑婆とは違い、刑務所では少々事情が違ってくる。

入浴は工場単位で行う。大阪刑務所には入浴場が5つある。

入浴は一週間に2回、入浴時間は15分間と決められている、

未決と同じだ。

 

作業を終え舎房着に着替え、タオルと石鹸を左手に持ち、

入浴場まで行進する。

右手で持ってはいけないという規則があるようだ。

 

他の工場が入浴しているので、脱衣場で裸になって待機する。

10畳ぐらいのスペースに裸の男が80人、

足の悪い者以外は、全員しゃがんで待機させられる。

ぎゅうぎゅう詰め状態だ。

 

週に2回しか入浴できないため、

前でしゃがんでいる受刑者のケツの臭いがする。

 

これは拷問だ。皆、石鹸箱を鼻に当てたり、

シャンプーの蓋を開けて、

ペコペコして悪臭を誤魔化そうとする。

長いときは10分以上待機させられる時もある。

 

前の工場が出浴すると、すぐに入れ替えで浴室に入る。

浴室には2つの浴槽とシャワーが40台設置されている。

 

80名の半分は先にシャワーを使い洗髪、身体洗いを行う。

もう半分は浴槽の周りで洗髪、身体洗いを行う。

 

全員が浴室に入ると、浴槽のまわりに一旦、フリチンで立つ。

誰のイチモツが、でかいだの一目で分かる瞬間だ。

タオルで覆い隠すなど許されない。

 

「入浴準備」

の号令で椅子に腰掛ける。まだ洗面器を触ってはいけない。

石鹸、タオルも置く位置がある。

 

「入浴」

の号令で洗面器を湯の中につける。

かかり湯は3杯までと決められている。

また、かかり湯をせずに浴槽につかることも禁止されている

 

洗髪、身体洗いに使用できる湯も15杯と決められており、

それ以上使うと懲罰になる。

最後にシャワーを浴びるのも20秒以内と決められている

 

15分という短い時間で髭剃りまでこなすことは難しい。

髭剃りは剃刀を担当台まで取りにいかなければならない。

 

時間を浪費するので風呂で髭剃りはしない。

舎房で電気シェーバーを使って、あらかじめ剃っておく。

 

脱衣場から浴室に向かう際、浴室の出口に

幅50センチぐらいのマットが敷いてある。

このマットは絶対に踏んではいけない、水虫菌の温床だ。

 

懲役慣れしているものは、皆、マットをピョンと飛び越える。

しかし、刑務所に慣れていない者は、

無意識のうちに踏んでしまう。

 

教えてやればよいのだが入浴場では交談が

禁止されているので話しかける訳にはいかない。

 

大阪刑務所の水虫は、塀の中という閉ざされた環境の中で、

悪人から悪人へと感染しているうちに独自の進化を果たした、

 

非常に感染力の強い、刑務所にのみ存在する

特殊な白癬菌の一種だと刑務医は断ずる。

 

娑婆にいるような軟弱な水虫ではない。

長年培ってきた環境が違う。

 

強烈な繁殖力を発揮し、感染すると歩けなくなる。

大袈裟な話ではない、威力が桁外れに違うので薬も効かない。

 

水虫が足首から下の感染病だと思っているならば、

大きな間違いだ。

 

太股の付け根まで感染は広がる。

感染した者は太股まで包帯でグルグル巻きにされる。

入浴は勿論、禁止される、

みんなが気持よく湯船に浸かっているのに

 

タオルを使って身体を拭くことしかできない。

夏場は特に厳しい。水虫に感染した者の、

包帯をはずした所を見たが、皮膚がジェル状態になっている。

 

水虫は感染するので雑居だと水虫専用のスリッパが

貸与され便所に置かれる。同室の者にもかなり迷惑がられる。

 

だから風呂のマットだけは、なんとしてでも

飛び越えなければならない危険地帯だ。

 

よく着地に失敗して入れ墨を入れたヤクザが

派手に素っ裸で転んでいる、面白いが笑ってはいけない。


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