野間(32)   殺人未遂罪及び強姦罪   懲役30年

 

野間は独身なので、たまにデリヘルを利用することがある。

デリヘルは本番が禁止となっているが、それは建前で大抵は本番ありだ。

 

この日も野間はデリヘルを利用した。30分程して女の子が来た。

20歳そこそこのなかなかの美人だった。

 

店には正規の利用料金60分コースの13000円を支払い、

女の子とは1万円で交渉が成立した。

お金は先に渡す決まりになっているので合計23000円を女の子に渡した。

 

行為が終わると女の子が、

 

「今日10万円なかったら携帯が止まるねん」

と言ってきた。10万円、何で俺が、と思い

 

「ふざけんな、何で俺がお前の電話代を払わなあかんねん」

と言った。すると女は

 

「払ってくれへんかったら、無理やり犯されたって警察に電話するよ」

と野間を脅迫した。女は以前からこの手を使ってお金にしたことがあるようだ。

 

野間は

 

「もう帰ってくれ、好きにしたらええやんけ」

と言った。女は電話をかけ始めた。

 

「私、今無理やり犯されて監禁されています」

 

野間は、どうせ嘘に決まっている、こちらが止めるのを待っているに

違いないと思って放っておいた。

 

「もう帰れよ」

と言うと、女が

 

「もうすぐ警察が来るからね、お金払うの、払わないの、どっちなの」

と金をよこせとしつこい

 

「お前、店の金とは別に1万円、渡したやろ」

 

「そんな、お金は、知らない」

と女は言う

 

「お前、帰れへんかったら、店に電話するぞ」

 

「したら」

と平然としている。仕方なく野間は店に電話した、店側は

 

「本番に関しては店としては禁止しています。

無理やりとなると刑事事件になりますよ」

という対応だった。女とグルなのか、

 

こんな店と話をしていても埒が明かないと思い電話を切った。

 

そこに

 

「警察です、ドアを開けてください」

と玄関の方で声がした

 

「お前、ほんまに電話したんか」

 

「だから、言ったやろ、電話するって」

女は嘘をつくことを何とも思っていない。

 

野間は事情を説明するために玄関のドアを開けた。

ドアを開けた瞬間に刑事がなだれ込んできた。

 

「動くな、動くな」

野間は腕をねじ上げられ一気に壁の方まで押しやられてしまった。

 

野間は咄嗟にテーブルの上に置いてあった日本刀をもう片方の手で振り回した。

野間の趣味は日本刀を集めることだった。

日本刀を所持するのに免許や許可といったものは一切必要ない

 

日本刀は鞘から抜け刀身が刑事の腹部をとらえた。

刑事の腹部かピンク色の肉塊が床に落ちた。

 

腸が落ちたのだ、今まで腸を包んでいたものが役目を果たさなくなったのだから、

腸は飛び出すしかない。

斬られた刑事は自分の身に何が起こったのかまだ理解できないようだ。

 

野間の周りにいた刑事が一斉に野間から離れ、玄関に向かって走り出した。

腹を切られた刑事は腰を抜かしてその場にへたり込んでしまった。

恐怖に戦き声すら出すことができないでいる。

 

野間は逃げようとする刑事の背中を袈裟斬りにした。

 

刑事2名は一命を取り留めた。

野間は刑事2名に対する殺人未遂と強姦で起訴された。

 

女は裁判でも強姦されたと虚偽の証言をした。

裁判は裁判員裁判となり求刑30年に対し1年も減刑されず判決は懲役30年だった。

 

悪い女に引っ掛かってしまったと言って、簡単に諦められる物事ではない。

女の嘘によって人生が変わってしまった。

 

冷静に行動していれば、狂言に踊らされた

警察と戦う必要は無いという判断ができたのにと後悔する。

 

女が娑婆で平然と暮らしていることが許せない。

こんな長期刑になるなら女も斬っとくべきだった、

悔やんでも悔やみきれないと野間は言う

 

 

五十嵐(50)  〇人、覚せい剤取締法     懲役15年

 

五十嵐は組織に属していたが破門となって神戸刑務所に来ていた

 

自分の兄貴分を日本刀で斬ったということだった

 

兄貴分の彼女と出来てしまって女が

「あの人が邪魔なのよ、〇してくれたら何でも言う事を聞くわ」

と言われ、本当に〇してしまったのだ。

 

女は五十嵐の懲役を待たずに違う誰かと交際しているという

 

よくあるパターンで女にしてやられたという感じだ、

刑務所の中だとどうする事もできない、

それをいいことに女は好き放題にする

 

これも覚せい剤が絡んでいてこそ成せる業だと思う

普通の人間が素面で人を斬るということはなかなかできない

 

薬が効いて凶暴になり、考えが単純になり、そこに女が絡むと

簡単に殺人事件を起こしてしまう

 

 

刑務所に入ると、先ず最初に房長さんに挨拶をする。

私が神戸刑務所に入所した時に部屋に入ったら

 

「まず、自己紹介からお願いします」

と言われた、言ったのは五十嵐だった。

 

そうか、この人が仕切っているのだと瞬時に分かった。

即ち、房長がこの人だと分かった

 

私は自分の罪名や年齢、地元がどこだとかヤクザかどうかという事を話した

 

この時はすでに堅気になっていたため、かなり偉そうに部屋の決まり事を言われた。

堅気とヤクザでは待遇が全然違う

 

一度、工場で終わりの時の足洗をうっかり忘れてしまったことがある

その時、五十嵐に呼び捨てで

 

「芹沢、足、便所で、洗ってこいや」

と言われたことがある。辛抱辛抱と思って

 

「はい、すいませんでした」

と素直に謝り便所で石鹼をつけて洗った。呼び捨てか、

久しぶりだなと感じながら足を洗った

 

便所から出てくると

 

「ケリー、もう一回、ルール教えといたれや」

と黒人の受刑者に言った。

 

自分の存在をアピールし地位も知らせてくれた。

ありがとう、そんなことしなくても雰囲気で大体分かるから。

 

ある日、工場の顔役であるヤクザ者と話をする機会があって、

共通の友達がいて急に仲良くなった。

 

すると今まで傲慢だった五十嵐が私に(さん)付けで呼ぶようになった。

刑務所とはこんなもので狭い世界でどちらが上かなどを争っている

 

そしてある日の事、運動時間中にバリバリの現役ヤクザが配役されてきて

その人間が私と同じ年齢で昔に所属していた組の人間だったことから

急に親しくなり運動時間は一緒に過ごすことが多くなった

 

すると五十嵐は私に

 

「芹沢さん、房長になってもらえませんか?」

と言い出し、私が持っている石鹸を交換してくれないかと言い出した

刑務所では珍しい物を所持していると、優越感を感じることができる

 

私はプュアホイップという香りがとてもいい石鹸を10個ぐらい所持していた。

舎房では一つだかしか持てないが10個ほど領置していると言った。

また、それだけではない同じ石鹸なのだがマルセイユというちょっと高価な

フランス産の石鹸も6種類各2個ずつ、計12個を領置していることも言った。

どうして手に入れたかというと大阪拘置所に居る間に

差し入れ屋で購入を依頼して差し入れてもらったものだ

 

拘置所でもそうだが、とにかく珍しいものを持っていると自慢できる。

それが普通では購入不可能なものであれば、あるほど値打ちがある

 

筆箱でもブランド物の筆箱なら尚更、値打ちがある。

刑務所に持って行って値打ちのある筆箱は

「像が踏んでも壊れない」のフレーズで有名な

「アームストロング筆箱だ」娑婆のベンツのようなものだ

 

昭和40年代に登場し、半世紀以上に経った

現役バリバリの筆箱が値打ちなのだ。

 

もう以前の物は売ってない、

そんな文房具界のレジェンド的存在の筆箱が

ものすごく値打ちなのだ。

 

刑務所でもアームストロング筆箱を所持していると言えば

羨望の眼差しで見られ、誰もが平伏す代物だ

 

刑務所には拘置所で持っていたものは

基本的に刑務所に持って入ることができる。

だから拘置所にいる間にコレクションのように貯め込む

 

マルセイユ石鹸はいい香りがするし、高価なものだし、石鹼で箔がつくのだ。

石鹼一つで刑務所では偉そうに出来るという事なのだ。

 

拘置所でいくらお金を持っていても買えないもの、

差し入れ屋からしか購入できないものなのだ。

 

どういうことかと言えば、面会人に差し入れ屋さんに

行ってもらいお金を預けてその中から

 

マルセイユを何個、ピュアホイップを何個と

言って貰わなければ買えない。

 

要するに面会人が来ていて潤沢にお金を持っていなければ

その様な贅沢は出来ないからだ。

 

先に記載した差し入れ屋さん丸の屋経由で

なければ手に入らない、特別なものなのだ。

だから値打ちがある。

 

刑務所に持っていくともっと値打ちが上がる

受刑者は毎日同じことの繰り返しで生活に嫌気がさしている。

 

そこに置いておくだけで香りを楽しめる

これは受刑者にとって大きな安らぎ、そして希望に変わる

 

五十嵐は休憩時間に親しみを込めて

 

「芹沢さん、石鹼を一つ、ピュアホイップと換えてもらえませんか」

と言ってきた、最初は見下して

 

「部屋のルール教えといてやれ」

と言っていたのはどこの誰だ。私は

 

「いいですよ」

といって石鹼の交換を約束した

 

マルセイユと交換と言わないところがまだマシだ、分際を弁えている

マルセイユは一つ1000円以上する、

ピュアホイップは100円位で購入することが可能だ。

 

ピュアホイップでも香りは楽しめる。

マルセイユなら置いておくだけで香る。

どちらも値打ちものだ。

 

五十嵐は手に入れたピュアホイップをものさしで削り、

天花粉の中に入れた天花粉も香りがいいが

 

ピュアホイップをいれるともっといい香りがする

値打ち品だ。しかし五十嵐は後のことを考えていなかった

 

天花粉は肌をサラサラにするもので

石鹼のような不純物が混じると効果を発揮しない

肌につけるとネチョネチョする。実用性が全くない

 

受刑者は彼是と工夫する。

非日常的な受刑者たちはこんな事でも十分、喜べる

いかに、狭い中で工夫しながら生きているか、

お解りいただけるだろうか