刑務所の健康診断には、いつもながら驚かされる。
「作業止め、全員整列」
と工場長の号令がかかる。受刑者は3列横隊で工場の中央に整列する。

本物の医者が来る、白衣を着て、聴診器を首からぶら下げている。
最前列は全員、服を首まで捲り上げるようにと言われる。
医者は順番に聴診器を受刑者の胸部に当てていく。
その時間はなんと3秒間。
心臓の音がするかどうか調べているのだろうか…。
そんな馬鹿なことはない。
全員が生きているのだから、心音はするだろう。
たった3秒で何が分かるのか、まったく形だけだ。
刑務所ではきちんと健康診断をしていますと
堂々と胸を張って言うが実際はこんなものだ。
刑務所で病気になると大変なことになる。
薬はくれるが、はったい粉のようなもので
薬らしい味がしない。
熱も38.5度以上でなければ座薬をくれない。
長引くとアスピリンが投薬される。
刑務所では薬が高い(値打ちをつけてなかなかくれない)
アスピリンは飲みすぎると胃に穴が開く。
森という受刑者がいた、森は何度も臨休を繰り返していた。
咳が出て熱も出る。
入病してもすぐに回復しない、
その度にアスピリンが投薬される。
胃の痛みも訴えるが一向に相手にされない。
森は結核ではないかと疑心暗鬼になり、
その旨医務に申し出たが、医務は風邪の対応しかしない。
アスピリンで一旦は治まるのか工場に戻ってくる。
しかし、またすぐに臨休に行く、
一向に回復の兆しが見えないことから、
森は法務大臣に情願をつけた。
しかし、当時の法務大臣は情願という制度さえ
知らないという有様だった。まったく呆れた話だ。
それから半年が経過していた。
森は8か月間、咳、熱、胃痛に苦しんだ。
そのうち、同室の者も熱発し
咳が止まらないという症状を訴え臨休に行った。
工場でも隣の役席の者が同じ症状を訴え臨休に行った。

ここで初めて医務が重たい腰を上げた。
森が結核に感染していることが判明した。
何名かが医療刑務所に移送になった。
森の舎房は一旦、空っぽになり、
念入りに消毒が行われた。
刑務所という所は実際こんなものだ
私も臨休で2週間、熱が下がらなかったことがある。
たまたま母が面会に来たので症状を伝えた。
すると今まで放ったらかしだったのに、
面会の1時間後に医務に呼ばれ、
痰をとる、採血をするやら、やたらと面倒見がいい
森に面会人や家族がいたならば、
もっと早期に解決できた問題かも知れない。
結局、受刑者の命など、どうでもよいのだ
歯科治療も通常2ヶ月は待たされる。
痛いときには治療はしてくれない。
ただ只管、痛みと戦うだけだ。
しかし、外部の者に手紙で痛くて眠れないなどと
書くとすぐに治療してくれる。
刑務所という所は受刑者から
何を言われようが屁とも思ってないくせに、
外部から圧力がかかるとすこぶる弱い。
出所間近の者には採血を行うなどマメだが、
刑期の長い者は放ったらかしにされることが多い。
胸部レントゲン検査が毎年、
実施されるようになったのは監獄法改正の
2年ぐらい前からだったと記憶している
もっと人の命を預かっているという認識を持ってほしいものだ。
