今日も朝からN本の嫌がらせは絶好調だ。
刑務所で配給されるチリ紙を官チリという。
領置金のある者は毎月の随時購入でチリ紙を買うことができる。
お金を持っていない者は願い事ノートに
チリ紙を支給して下さいと書かなければチリ紙をもらえない。
一束で15日分と決められており、使用量が多いと工場長に
文句を言われ支給してもらえない場合がある。
N本の場合、自分の気に入った受刑者だといくら、
官チリを使用しても文句を言わない。

気に食わない受刑者だと、前回支給日は何日だったか徹底的に調べ、
支給しない理由を探そうとする。
要するに依怙贔屓が激しいのだ。
工場長の機嫌を取り、胡麻すり上手な受刑者には
何でも大目に見るが、少しでも工場長の
機嫌を損ねる発言をした受刑者は何かにつけて嫌がらせをして、
じわりじわりと担当抗弁という規律違反で取調べに
上げ工場から放り出す作戦を展開する
受刑者が文句を言い返すのを待っているのだ。
N本にとって殿様ごっこができる快適な職場、
否、遊び場を構築することを目的として勤務している。
受刑者にとっては迷惑な話だ。
こんなことがあった。
衛生夫が出所した後、次の衛生夫を誰にするのかを
決める時に、班長連中が反対したのにもかかわらず、
N本が勝手に決めた事がある。
衛生夫は普通の受刑者よりも作業が楽だという面があるので受刑者は
衛生夫になれるものならばなりたいと願う

N本は中村という70歳になるおじいちゃんを抜擢した。
案の定、仕事に間違いが多い。
洗濯物を間違えてロッカーに入れたり、
脱衣場のパンツを吊し間違えたりするので
受刑者どうしがケンカになったこともある。
そのような仕事ぶりなので作業補助という
受刑者をもう一人伴わなければ仕事ができない。
年寄りを労る気持ちは理解できるが、できる事とできない事がある。
この辺も分かっていたので班長連中は反対をした。
工場にはまだ中村よりも年輩の受刑者もいた。
それにもかかわらずN本が中村を選んだのは、
中村が追従、胡麻すり上手だからというそれだけの理由だった。
ある日中村が事件を起こした。
その日は、乾パンが休憩時間に配られることになっていた。
刑務所では非常食の乾パンを定期的に受刑者に食べさせる。
古くなって賞味期限が近くなったものを受刑者に食べさせ、新しいものを
非常食として備蓄するのだ。
受刑者に食べさせる乾パンには砂糖が大量にまぶしてある。
中村は補助の者と、まぶしてある砂糖を削ぎ落とし、
お茶の中に入れ自分たちだけで甘茶を作って飲んでいた。
これは立派な規則違反で懲罰になる事件だ。
しかしN本は自分が抜擢した衛生夫だから上げない。
またこの事件のことをノートに記載していた部分を
私に消せという、証拠隠滅を強制された。
私のノートはいたる所に削除させられた箇所がある。
ノートは削除できても記憶までは消せない。
刑務所では2か月に1回、ノート検査の日がある。
刑務所にとって不都合なことが記載されていないか検査するのだ。
受刑者は全員、中村事件を知っている。
N本が事件を揉み消したことも知っている。
これでは工場の統制がとれない。
受刑者の中には所長面接をつけると言いだす者まで現れる始末だ。
受刑者たちにはもうすぐ私が面接をつけるからと言って宥める。
そんな苦労も知らずにN本は毎日のように、
「俺はすごい刑務官だ」
と自画自賛をする。いいかげん腹が立って来て、
「二度と私の前で俺はすごいと言わないで下さい」
と本気で怒った事がある。
N本はその時、謝ったが1ヶ月もしないうちにすごいが、
すばらしいに変わっただけで自分を褒めることを止めない。
N本はナルシストだ。
自分のことを大阪刑務所で一番すごい刑務官だと
堂々と胸を張って言う。
自分の愚かさに気が付いていないのだから、
ある意味すごい奴だ。
N本が中村らを上げなかった理由がもう一つある。
私の日記によると、翌月の工場成績が2位になっている。
2位だといくらかが給料に加算される
中村と補助の者を取り調べに上げた場合、
2人が懲罰になることは間違いない。
減点の点数も大きい。
5位以下になると割増が無くなってしまうと
N本から聞いた。
中村を上げなかったのはこちらの方が原因でないかと思う。
N本は何年か前にマイホームを購入している
確かに家のローンは大変だろう。
しかし公私混同してはならない。
ローンは私的なことで、
そのことで処遇に影響を及ぼすことがあってはならない。
N本は時間があればマイホーム自慢をする、公務員の夢なのだろう。
20坪の戸地やけどな…と始まる。最後はいつも俺ってすごいやろとくる
だから話は聞き流すことにしている。
刑務所という所は工場長に工場を任せているので、
工場長の一存でどうにでもなるというのが現状だ。
だから工場長との関係に軋轢が生じると工場を出て
行かざるを得ない、だから追従する者がやたらと多い。
そのような結果、何でもかんでも工場長のやりたい放題になる。
規則違反をしても懲罰にならずにすぐに帰ってくる
受刑者もいれば懲罰になる受刑者もいる。
いい加減なもので工場長は国家権力以上のものを思う存分
行使することができるという特権があるようだ。
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