刑務所には動静引継簿というものがある。
日勤の看守から夜勤の看守に渡され、
また夜勤の看守より日勤の看守に渡される。
受刑者の身内に不幸があったような場合、
受刑者が落ち込んでいるので動静を見ていてほしいというような
業務連絡を行うための簿冊だ。
ある日、N本に動静引継簿を刷新してくれと言われ、
古い簿冊と新しい簿冊を渡された。
私は参考までに中を拝見させてもらった。受刑者の悪口ばかりが
記載されていた。
「誰々を虐めてくれ」 「誰々に嫌がらせをしてくれ」
「誰々を引っ掛けてでも上げてくれ」 「誰々の顔が嫌いだ」
ということが記載されていた。中でも酷かったのが、
「誰々は粗チンだ」
と玉検の日に記載されていた。
私たち受刑者は、2ヶ月に一回、玉検が務付けられている。
作業終了後に工場長が各舎房を回って検査する。
玉検とは陰部を隅々まで見せ、玉を入れていないか、
また玉を入れている者は玉の数が増えていないかということを調べる検査だ。

屈辱的だがしょうがない。業務連絡として誰々のチ○コが大きいとか小さいとか、
刑務所の管理運営上、何か問題でもあるのか。
その他にも差別用語が多数記載してあった。
私は受刑者という立場ではあるが、
N本に受刑者を玩弄するなと言ってやった。
それでもN本は、虐めは必要だと宣う。
さすが大阪刑務所で一番悪い看守といわれるだけあって信念は曲げない。
後輩を指導する立場の人間が受刑者を虐めろと指導する。
いくら監獄法が改正されたとしても、刑務官の人権意識の
希薄さから改めなければ、いつまで経っても刑務所は良くはならない。
実社会においても上司が部下を虐めるなど、
人が集まる場所には、多少なりとも虐めというものが存在する
刑務所の場合は逃げ場がないうえ、憂さを晴らすこともできない。
虐めを受けた側の苦悩は相当なものだ。
憲法を無視した人権侵害を日常的に行っているから
何をしてもよいという錯覚に陥る。
国家公務員法にはすべての公務員は憲法尊重、擁護の義務を負い…
とハッキリと記載されている。
権力を振り翳し箝口させた上で受刑者を弄ぶ、
これを虐めと言わずに何という。
全ての看守がそうではない。
一部の愚かな看守のために刑務官といえば陰温なイメージがつきまとう。

受刑者を監視し規則を守らせることが刑務官の仕事であるから、
厳しい指導もしなければいけない時もある。
その一方で受刑者の悩み事を聞いてやったり、相談に乗ってやったりと
心で接してやることも大切だ。だから受刑者は工場長のことをオヤジと呼ぶ。
指導とは公的な立場で行うもので、恣意的な感情が処遇に
影響を及ぼすということがあってはならない。
受刑者にも人権はあるということを刑務官は忘れてはならない。
簿冊の中に送付簿というものがある。
これは取り調べになった者が送られた先に、
個人情報と物品を送るための簿冊だ。
送付簿を作成するのは工場長の仕事だ。
中には個人の住所や家族構成や個人情報が記載された
分類調査表も入っている。
N本は自分の仕事を計算工にさせる。送付簿、出入簿、
分引き簿は工場長が書かなければならないことになっている。
本の購入、臨時購入の指印も工場長の仕事だが、すべて計算工にさせる。
言いだしたらキリがない。
N本はというと、受刑者と卑猥な話をしていることが多い。
こんな時だけ役席に赴く。担当台に戻ってきて誰も見ていないと
思っているのか変な所をよくさわっている。
前からは受刑者に全く見えないが横からだとよく見える。不謹慎な職員だ。
いつも処遇部長が来たら、米つきバッタのようになりドアボーイとなって
処遇部長を送り出す。処遇部長が巡回に来たら必ず教えろという。
送付簿が目の前にある。中を見るなと言われた覚えはない。
送付簿を開くと観察表が見える。観察表の表には
罪名、刑期、何度目の入所かということが記載されてある。
観察表の中には、分類調査表というおもしろいものが入っている。
事件の概要、動機、原因と事細かく記載されている。
見ていると楽しい。重大な個人情報の漏洩だ。
工場長の懈怠が原因でこのような事態を招いた。
印象に残っているものがある。自称暴力団幹部の調査票だが
事件の概要という欄に百貨店のエレベーターガールの腰に抱き着き、
臀部に顔を押し付けたという容疑で逮捕されたと記載してあった。
本人は傷害事件だと言っていた。事件の動機と原因の欄を見るのを忘れてしまったが、
親の躾という欄を見てみると〝厳格〟と記載されていた。見事な躾だ。
コメントを残す