刑務所には年間行事の催しがいくつかある。
春には観桜会、夏には運動会、秋にはソフトボール大会。
以前はバレーボールや卓球大会などもあったがなくなってしまった。
受刑者達は慰問にも癒されるが催しにも癒される。
桜が見頃になると観桜会が行われる。木は細くて小さいが、
運動場には何本かの桜の木がある。
運動場にカラオケの機械を持ち出してカラオケをする。
作業は半日だけ免業となる。
わずかばかりではあるが菓子とジュースも振る舞われる。
受刑者にとって楽しみの一つだ、カラオケは10人ほどしか歌えない。
他の人の歌を聴くのも楽しい。同じ歌を5年連続トップバッターで歌う受刑者もいた、
申し訳ないと思っている
受刑者達はあと何回桜を見たら出所かと指折り数える。
私たちの工場の入口には大きな桜の木があった。
樹齢は知らないが私より先輩だと思う。
春になると美しい花を咲かせ、夏には緑の葉を蓄え、秋には葉の色を変え、
目を楽しませてくれる。冬は只管に耐えている。何度も勇気づけられ、
元気をもらった気がする。
夏には運動会がある。昔は運動会といえば1日行事だった。
現在は、午前中は作業をして、午後から運動会を行うことになった。

受刑者の楽しみは他工場の受刑者と会えることだ。
招集係をすると、競技に出場する選手をスタート地点に、
誘導しなければならないので知り合いと会うチャンスがある。
受刑者は社会から隔離された場所で、同じ境遇の者同士、相通じるものがある。
少しの間だけでも話ができれば、よいのだが目くばせをするだけでも嬉しい。
如何に変化のない退屈な日常であるかを窺い知ることができる。
知り合いを見つけると咳払いをして合図を送る。
各工場の後には簡易トイレが設置されている。
並んで小便をするふりをすれば話ができる。
看守に見つかったとしてもこの日だけは大目に見てくれる。
それと、受刑者の楽しみは食べるものだ。
わずかばかりの菓子と折り詰め弁当が配られる。
昔は運動会には赤飯が出たが最近はもう出ない。

年間行事の中で一番盛り上がるのはソフトボール大会だ。工場が一丸となって戦う。
試合が近付くと昼休みや休憩の時間を利用して応援の練習をする。
戦うのは選手だけではなく観戦している者も一緒になって戦う。

ある日こんな事があった。相手工場もヤクザだらけの
サムライ工場だった。試合開始早々、
ケンカになりかけた事がある
金沢 (38) 恐喝 懲役3年
金沢は足が速いので一番打者に抜擢された。
金沢は初球から打ちにいった。
「バコッ」
バットは手から離れキャッチャーの頭を直撃した。
当てたのはボールではなくキャッチャーの頭だった。
当然、当てられた相手工場のキャッチャーは反撃をする。
金沢に掴みかかった、そこに審判の係長が割って入る。
こちら側の工場も相手側の工場も戦闘態勢だ。
「コラやめんか。何でバットを投げたんや」
と係長は金沢に聞く。
「投げたんと違います。バットがスッポ抜けたんです」
と言って金沢は両手を広げて見せる。
金沢の指は両手を合わせて6本しか無い。
ヤクザだから仕方がない。
金沢は相手工場のキャッチャーに深々と頭を下げた。
大きなケンカにならなくてよかった。
試合が再開された。
2球目はボールだったので打たずに見送った。
キャッチャーがピッチャーに返球する際、
返球が金沢の頭を直撃した。
「謝ったやろ」
と今度は金沢がキャッチャー掴みかかる。
「コラやめんか。 何でぶつけたんや」
と係長がキャッチャーに聞く。
「すいません。コントロールをミスしました」
と言って右手を広げて係長に見せる。
指が2本足りない。
仕返しだ、係長は、
「お前らええかげんにせえ、
今度やったら取り調べに上げるぞ」
と怒る。
まるで子供だ。一発は一発で返さないと気が済まない。
刑務所という所は小学校と同じで授業が
作業なだけでレベルは小学生と同じだ。
1年の締め括りはやはり忘年会だ。
私たちの工場は年末になると忘年会を
催すことを許可してもらっていた。
工場長と受刑者の関係は持ちつ持たれつだ。
ある程度の顔を立てる代わりにこちらの要望も聞いてもらう。
忘年会といっても菓子やジュースが出るわけではない。
40分間の運動時間を利用して雑居の各部屋で出し物を決めて、
点数を看守につけてもらう。
優勝した部屋には手作りの表彰状が送られる。
単純だが少しでも受刑生活を楽しもうというアイディアだ。
みんなが知っている歌を披露する、大塚愛ちゃんの
〝さくらんぼ〟という歌だった。
部屋のメンバー8人が体育館の舞台に上がり、
踊りながら歌を唄う。
♪愛し合う二人~♪とテンポよく進む。
歌が最後に近づく、前の3人が私たちに背中を向けて、
いきなりズボンを脱いだ。後ろの5人は踊り続けている。
歌は終りに近い…
♪私サクランボ♪と言った瞬間、前の3人が一斉に前を向く。
全員がパンツをTバックのように思いきり引っ張り上げている。
股間からは左右に見事なサクランボが顔を出している。
男ばかりだ、何も恥ずかしがることは無い。看守も思わず笑う。
この部屋の優勝だ。
工場がまとまっているとこのような催しができる。
工場をまとめるのは工場長ではない。
各工場には受刑者を束ねるリーダーがいる。堅気ではない。
工場で問題が発生すると鶴の一声でリーダーが解決する。
誰にも文句は言わせない。
リーダーにはこれくらいの器量が必要だ。
常に工場全体のことを考え、弱い者いじめがないか目を光らす。
私たちの工場はよくまとまっていたと思う。
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