伝説の懲役

返答はいたってシンプルなものであった。

 

「俺は有名になりたいねん」

私はブンマサに、やたけた(無茶苦茶)するのは何故かと尋ねた

 

大阪には懲役名物、ブンマサという男がいる

近畿管区の看守であれば知らないほうが珍しい。

インターネットで刑務所、ブンマサでヒットする。

 

生野区にもブンマサはいるが、平野区のブンマサの方が有名だ。

 

ブンマサは刑務所の規則に縛られない、自分のペースで務める

ブンマサのことをどこの工場長も嫌がり取りたがらない。

 

誰とでもすぐにケンカをするので、

そのような者を就業させると自分の可愛がっている

懲役を連れて上がられると困るからである。

 

ところで、ブンマサは人間界の底辺で何を仕出かすのか、

 

「そうりゃ、そらそら、いくで~」

と朝の4時頃、独居房で声がする

 

「ガッシャン、パリン、パリン」

ガラスの飛び散る音がする、

配膳台を食器口の上に取り付けてある、

ガラス窓にぶつけている

 

看守もブンマサのことが恐くて注意するどころか、

近づこうとしない

 

「まだまだ、いくぞ、俺は平野のブンマサじゃい」

 

何名かの看守でブンマサを連行して行く、

ここでブンマサ音頭を歌いだす

メロディーは夕焼け番長の替え歌だ

 

「ブンマサ様のお通りだ、正義の味方のお通りだ、隣の番長やっつけて」

ブンマサは私より一つ年上だ。

同じ世代だから、私もこの歌を知っている

声が段々、遠ざかっていく

 

ブンマサは鎮静房に一旦、収監されるが

行刑法での制限があるため3日後には独居房に還される。

これを何度も繰り返す。官もまたガラスのある房に戻すなよ。

 

何度目かは知らないが

 

「今日もいくでー」

と威勢の良い声が静寂を破る

 

「ガーン、ドカーン、あれ、割れへんぞ、おかしいな、ドカーン」

官も考えた末にガラスを強化プラスチックに

変えたようだ、もっと早くにするべきだろ。

「ガッシャン、パリン、パリン」

食器口がダメなら反対側に小さな窓がある。

官の考えることはこんなもんかと呆れる

 

ブンマサは風呂で水泳をする。刑務官を殴る。

しまいに検事まで殴って、刑が2年4月年ほど加重された、

その公判でも刑務官を殴った

 

 

功名心が強い私たちの工場長はトラブルメーカーを進んでとる。

そしてバトンを我々に渡す、

気に掛けるのは事務所の評価のみである

 

取るに至った経緯は容易に推察できる。

ブンマサが懲罰中に私が引き受けましょうと

恰好をつけたことがまるわかりだ。

 

私たち計算工は事前に配役者を知ることができる。

聞けば簡単に教えてくれる、計算工の楽しみの一つだ。

 

「オヤジ、明日、誰か配役おまっか」

 

「おう、明日は2名で誰々や」

とフルネームで教えてくれる。

 

工場長は3日ぐらい前から知っている。

聞けば何でも教えてくれる、親切だ。

 

ブンマサの場合はちょっとわけが違う、

刑務所で一番の問題児だからだ。

 

工場長に呼ばれた、懲役に悟られまいと私の耳元に手を近づけて

小さな声で大変なことを言う

 

「あのなあ、ブンマサ取るぞ」

後はあんじょう、頼んどきまっせ、と心の声が聞こえる

 

「ああ、そうですか」

としか言いようがない

 

「大丈夫か?」

と心配しているフリをする。悪い奴だ、

お前が一番よく知っているだろと心の中で呟く。

 

工場は実質ヤクザが管理している、毒は毒をもって制す、

難儀なことは全部ヤクザまかせ、

どこのB級刑務所でも同じだ。

 

今日はブンマサ配役の日だ、

名前だけで顔はみたことがなかったので楽しみだ

 

工場の扉が開く遂に登場した、見えた、

なんとブンマサは化粧をしてきた。

 

いや違う、目の下に入れ墨を入れているのだ。

まるでデビルマンのようだ。

強烈としか言えない。男前なのにもったいない

 

私は計算工なのでブンマサに工場就業の用意をさせる。

その間に

 

「ええか、担当(工場長)は悪いが、ええ工場やから辛抱しろよ」

と言う。

 

ブンマサは1週間以上、工場に居たことがない

しゃべると意外と普通で作業も普通にしている。

ムードメーカー的な存在で、なかなか、いい奴だ。

 

現在は運動会の応援合戦が無くなったが、

ブンマサは応援合戦の振付を一生懸命に考えてくれ、

積極的に協力してくれた。

 

2週間が経過した。

 

「初めてですわ、これだけ、もったのは」

と言う。同じ工場で作業をしたのはという意味だ

 

ある日、作業中にブンマサが私を呼ぶ

 

「芹沢さん、さっきから、あいつチラチラ、

ワシのことを見よるんです」

と言う

 

「お前は有名人やから、ブンマサのファンとちゃうか、

気にするな、休憩時間に言うとくわ」

と言った。またブンマサが私を呼ぶ

 

「何回も、目が合うんですわ」

作業中の脇見は懲罰の対象になるから、

受刑者どうし目が合うことは少ない

 

「わかった、言うたる」

と言って相手方の役席に行って交談許可を取った

 

「何でブンマサを見るんや」

 

「いや、ブンマサ君が見てくるねん」

と言う。お互いが意識しだして過剰に気になる現象だ。

 

「あんまり、じろじろ見るもんやないぞ、ケンカになるぞ」

と言った。

 

B級刑務所では邪気をまわす者がやたらと多い。

邪気をまわすとは相手に対して自分自身の

良くない考えを当てはめることをいう。

 

これは覚せい剤の後遺症で一生治らない。

B級刑務所には、こんな連中がごろごろいる。

喧嘩のほとんどがこれだ。

 

ブンマサのところに行って

 

「何もない、から気にせでええ」

と言うと

 

「はい、わかりました」

と素直だ

 

5分もしないうちに

 

「おんどれー」

と言ってブンマサが役席を離れ走り出した。

いきなりドロップキックをかました。

私が注意したのにもかかわらず、

またブンマサのことを見たようだ

 

「何ぞ、あるんかいな、ワシに」

と言って殴りかかる

 

これでまた懲罰だ。誰でもじろじろ見られたら、

いい気はしないだろ、B級刑務所には変わった受刑者が多い

 

ブンマサは何年か前に悪名高い名古屋刑務所で亡くなった。

 

故人の遺志を尊重してブログに登場させた


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