小林 (42) 覚せい剤使用 懲役3年
小林はコバッチと呼ばれている。
務めは5回目だ。すべて覚せい剤だ、小さくて可愛い。
コバッチは訴訟中でいつも裁判のことで頭がいっぱいだ。
訴訟といってもコバッチが訴えられているわけではない、
反対に原告として訴訟を提起している。
相手は以前、神戸刑務所に務めていた当時の神戸刑務所の所長だ
事の始まりは神戸刑務所に務めていた時、コバッチは夜間独居に入っていた。
就寝の号令がかかり1時間程した時だった。
いつもなら、すっかり眠っている時間なのだが、この日に限ってなかなか眠れなかった。
足音が近づいてきたのでコバッチは眠っているフリをした。
すると足音がコバッチの扉の前で止まった。
「眠っているようです」
と看守が電話で誰かに報告する声が聞こえた。
その直後に鍵穴に鍵が差し込まれ扉が開かれた。
コバッチが起き上がろうとした瞬間、口をタオルのようなもので塞がれ、
その直後に気を失ってしまった。
気が付くと医務病棟に運ばれて、ベッドの上に縛られて身動きができなかった。
コバッチが、
「何をするねん」
と言うと看守が、
「お前の頭にカメラを埋め込んで、他の受刑者たちの動静を監視するんや」
と言った。その後またタオルで口を塞がれ気が気を失ってしまった。

気が付くと舎房に戻されていたと言う。
コバッチは絶対に妄想ではないと断言する。
舎房で禁止されている頭洗いをしようとすると、
「ダメです、ダメです、見られていますよ」
と言う。あまりにも熱心に言うので部屋や工場の人間がからかう。
「コバッチ、後ろから線出とるで」
と言う。カメラの配線がはみ出しているということだ。
コバッチはサッと後頭部に手を回し、線をつかもうとする。
「あれっ、さっき見た時には黄色と赤の線が出とったんやけどなあ」
と〝いらう”。からかうことを関西では〝いらう〟と言う。
コバッチは人気者なので行く先々でいらわれる。
事情を知っている看守がわざわざコバッチの後ろに回って首を傾げて、
おかしいなぁという表情をして見せる。
コバッチは真剣に線をつかもうと素早く手を後頭部に回す。
看守にもいらわれる。コバッチは工場の人気者で、
みんなのマスコットという存在だ。
コバッチの後ろを通る時は、後頭部に息を吹きかける。
するとコバッチは素早く反応する。
コバッチの後ろでポーズをとる。コバッチは、
「何してるの?」
と尋ねるが、
「いや、今、カメラ出とったで」
とまたいらう。コバッチは後頭部をなでる。
ある日コバッチが出役してこないので同じ部屋の者に聞くと、
口論の疑いで上げられたという。
前日に配役があり新入はコバッチの部屋に入った。
新入は工事現場の電気道具を盗んで売りさばいた窃盗ということで逮捕されて、
大阪刑務所に来た、本職は電気屋さんだ。
コバッチは新入に、
「頭の後ろにフタがあるので探してほしい」
と懇願した。新入は最初、
「これを開けるにはドライバーが必要です」
などと冗談を言っていたが、あまりにもしつこいので、
「もう開かへんように溶接しました」
と言った。これに腹を立てたコバッチが新入の胸ぐらを、掴んだ。

その瞬間を看守に見られてしまったということだった。
覚せい剤を長く使用していると幻覚や幻聴といった症状が現われ、
覚せい剤を止めても症状が残る場合がある。俗にいう後遺症というやつだ。
言われてもいないのに悪口を言われたと思い込み、ケンカに発展する場合が
ある。このような覚せい剤の後遺症を持った人間がB級刑務所にはウヨウヨいる。
普通じゃない。常に猜疑心が渦巻く場所であるため警戒心を緩めることができない。
誰がいつ殴ってくるか分からない。
これもB級刑務所、特有の特徴だ。
コバッチ、溶接機なんか舎房に無いだろう。
