刑務所では月に2回、運動時間を利用して、
体育館の2階にある図書室に順番に上がり官本を
貸与してもらえという制度がある
このことを官本引きという

良い本や、つまらない本、当たりハズレがある。
くじ引きのようだ。冊数に制限があり、
独居が3冊で雑居は人数×2冊なので、
8人部屋なら16冊まで借りることが可能だ。
受刑者にとって読書は、
持て余す時間を潰すのに有益な役割を果たす。
教養を身につける絶好の機会だ。
書籍は受刑者を塀の外へと連れ出してくれる。
すばらしい友人だ。

ここで紹介しておきたい本がある。
娑婆でいくらお金を出したとしても、
手に入れることができない本である。
私も最初に見たときには金槌で頭を殴られたよう
な衝撃を受け、動揺を隠すことができなかった。
刑務所でしか読めない、特別な本であり、
私以外の受刑者もこの本が実在することを認識している。
私も長い間、様々な本を読んできた。
小さい頃には飛び出す絵本という、
本を開くと絵が飛び出てくる変わった
仕掛けの本も読んできた。
一度出逢うと二度と忘れられなくなる本。
そんな本が実際にあるのだろうか、実在するのだ。
物語を読み進め、温まった指でページをめくる。
その衝撃は予告もなしに突然襲ってくる。
心の準備などしている暇はない。

ページをめくった瞬間、目が釘付けになった。
大量の鼻毛で埋め尽くされている。
2本や、3本どころではない。
100本以上の鼻毛が挟んである、
不潔極まりない鼻毛本だ。
こんな本は、どこを探しても販売していない。
どんなにおもしろかった本でも続きを読む気はしない。
物語は強制的に終わらざるを得ない
挙措を失い茫然としたまま考える
何故あれだけ大量の……
脳が今までの知識と経験を基に思考する…
鼻毛が本の中で繁殖した…いや、それはない。
1ページ読むのに100本もの鼻毛を抜く時間がかかったのか…
それより一人にそもそも100本も鼻毛が生えているのか…
実は鼻毛ではないのか…いや、あの形は鼻毛だ…
あの官本を引いた者はあのページに鼻毛を
積み立てしなければならないのか…
いくら考えても答えは出ない。
えっ、本の題名…そんなもん忘れたわ。
次の官本引きの時に図書の看守に言ってやった
「オヤジ 鼻毛本引きましたわ」
すると看守は
「鼻毛本でよかったやないか。チ〇毛本もあるぞ」
と言う。見たくないわ、そんな本。
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