一般社会では、一方的に暴行を加えられた場合は
暴力を振るった側が罰せられる。
しかし、刑務所の場合は少し事情が違う
殴った側は勿論、懲罰となるが、殴られた側も懲罰となる。
理由は、殴られるような原因を作ったということだ。
どうせ懲罰になるのなら一発でも殴り返さないと
殴られ損ということになる。
ケンカが始まり非常ベルが押されると
2分ぐらいで50人以上の看守が必死になって走ってくる。
こうなるともう殴れない。
看守たちは他の受刑者に
「こっちを見るな、下を向いとけ」
と非常に強い口調で言う。
受刑者は興味本位で見てしまう傾向にあるからだ
みんなはコッソリと見る。見つかると先ほどのように怒られる
制圧といって、受刑者を力ずくで押さえつける。
見られたら都合の悪いことでもあるのか
刑務所でのケンカは、殴られたら、殴り返さないと損をする。
刑務所の場合は、ケンカを止めても懲罰になる。
知らないふりを、していなければならない。
ケンカを止めようと、どちらかを抱きかかえたりすると、
抱きかかえられた方は攻撃を受けやすくなる。
取り調べが始まると殴り易くするために
抱きかかえたと判断され、ケンカに加勢したとして
同じように懲罰が科される。
刑務所ではいつ戦闘開始のゴングが鳴るか分からない。
岡田という受刑者が配役されてきた。
運動時間中の配役だったため、
岡田は福嶋と話を始めた。
以前から岡田とは顔見知りのようで何か話をしている。
岡田が看守に何かを言うと、別の看守が岡田を迎えに来た。
事務所に行くようだ、福島と何か問題があったようだ。
岡田は覚せい剤の営利目的所持で逮捕され、
警察で誰から買ったのかということをすべて
白状してしまったらしい。

この業界では誰から買ったと言わないのがルールだ。
岡田は掟を破ったことになる。
岡田に覚せい剤を流していたのが福嶋の兄弟分だったようだ。
福嶋にしてみれば、こんな奴と一緒に務める訳にはいかないだろう。
岡田に工場から出て行くように言ったようだ。
岡田は上がるつもりで事務所に行ったのだが、
係長あたりに説得され、運動が終わるころ、
また工場に帰って来た。係長は、簡単に考えていたのだろう。
これには福嶋も辛抱できなかった。
作業が始まるとすぐに、福島は役席にある
鉄パイプを持って、岡田めがけて走り出した。
岡田は前を向いて作業をしているので、
福島の動きに気が付かない。
福島は背後から鉄パイプで襲いかかる。
岡田の後頭部に鉄パイプが、めり込んだ。
後頭部を強打され椅子から転げ落ちるように倒れた。
自分に何が起こったのか分からないようだ。
意識が朦朧としている。後頭部から多量の血が出て床に広がって行く。
福嶋は手加減せずに岡田の顔面めがけて
「死ね ボケ」
と言いながら鉄パイプを何度も振り下ろす。
岡田は気を失い人形のように転がっているだけになった。
このままでは死んでしまう
顔面は真っ赤に染まり、床はもう血の海になっている。
福島にブレーキはない、本気で殺そうと思っているのだから。
看守も恐がって近付こうとしない。
非常ベルで駆け付けた看守たちが、大勢で福島を抑え込んだ
福島は事件送致となり、出所が1年延びた。
岡田は、事務所で事情を説明したはずだ。
刑務所側は、安易な考えで岡田を工場に戻した。
ケンカの原因を作ったのは受刑者ではない。
刑務所の杜撰な配役が、大事件へと発展した。
責任の一端は刑務所側にもある。
刑罰を受けるのは受刑者のみで、岡田に帰るように
指示した係長にも、処分があってもおかしくはない。

自分に都合の悪いことは素知らぬ顔で、
悪いのは、いつも受刑者だと決まっている。
刑務所では何時、何が起こるか分からない
塀の中でしか生活できない一癖も二癖もある
社会からのはみ出し者たちばかりが
集められた場所でケンカが起きないはずがない。
人が暮らすという環境の中では最も
危険な場所と言っても過言ではないだろう。
自分の命は自分で守らねば、誰も守ってくれない。
看守も例外ではない。看守も殴られるという事件がよくある。
いつも危険と隣り合わせだ。
何時、誰が、野獣と化すか分からない。
B級刑務所ならではの光景である。
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