私は一時的とはいえ離脱指導など一切受けるつもりはなかった。
だから工場長の話を固辞し続けた。
ならば赤線を巻かずに、腕に作業補助という腕章をつけるだけでよいから
班長をしてくれと頼んできたがそれも断った。
結局、他の受刑者が班長をすることになったが、不良品を大量に出して
返品をくらってしまった。
離脱指導を受けないという条件で班長を引き受けた。
もちろん帽子に赤い線など巻いていない、作業補助という腕章だけの班長だ。
私は配役されてから1年半ほどで班長になった。
私が出所するまでに何人かのヤクザ者がこのようなスタイルで班長をした。
私は受刑者を少しでも、ゆっくりとさせてやりたいという思いから、
仕事は急がなくてもよいからと指導した。
仕事が遅れて、業者に文句を言われるのは、班長なのだから、
私が頭を下げさえすれば、それで事は済む。
同じ受刑者に「仕事をしろ」などと言われたら、それこそケンカになってしまう。
刑期の半分である2年半を務めた時、今度は計算工になってくれと
言われた。
計算工が懲罰に落ちたのだ。

何度も断ったがどうしてもと言うので、
この時も絶対に離脱指導を受けないという条件で計算工を引き受けた。
計算工という仕事は、よく受刑者から無理を言われることが多い。
刑務所では、各受刑者の持ち物にシールが貼り付けてある。
シールの貼れない物、例えばシャツやパンツには片布という
布が縫い付けてある。
片布やシールに名前を記入するのは計算工の仕事になる。
受刑者に違う名前を書いて舎房に入れてほしいと、
頼まれることがある。
要するに他人にあげるということだ。大抵は博打の代償だ。
購入品を、本人以外の者に渡すという行為は、不正授受に該当し
懲罰の対象となる。
刑務所では、各受刑者に所持品表というものがあり、購入した品目を
計算工が記載しなければいけないことになっている。
また所持品を廃棄した場合にも記載をするという
不正授受に関しては徹底した厳しい管理体制が敷かれている。
看守が不正授受を疑った場合、所持品表を検査して
記載されていない物を所持していた場合は取り調べとなる。
このため受刑者同士での物品のやり取りは容易ではない。
しかし、計算工が加担すれば当事者以外の者に知られずに
簡単に行うことができる。
この行為に協力することは、計算工が現在に至るまで培ってきたもの、
信用や辛抱の積み重ねを、すべて放棄し、無駄にするという
結果を招く。そのことを覚悟しなければならない。
一回でも不正授受に協力すると、誰もが同じことを言ってくる。
断ると、なんであいつだけだとケンカになってしまう。
頼む側は相手のことなど考えすらしない。
私が配役された頃の計算工はシャンプーの中身を入れ替えたり、
石鹸を入れ替えたりと、何かと便宜を図っていたようだが、
私が計算工をしてからは、
誰からも不正を頼まれることはなかった。
計算工は、工場長と話をする機会が多く、受刑者が言えないことや、
工場内でのトラブル等、多岐にわたって工場長と話をすることがある。
時には工場長の私的な相談話を聞くこともある。
計算工は、受刑者の中でも特別な存在に位置するため、
工場の管理運営には、口出しできる立場ではないが、口を出す。
工場長は計算工を受刑者の代表者として認識しているので、
彼是と相談してくる。
受刑者の立場も考え、工場長の立場も考え、軋轢が生じないように
配慮するという役割も担っている。
私は赤線を巻かずに作業補いう腕章だけで、
現役ヤクザのままで、満期出所まで計算工をした。
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