刑務所には慰問という行事がある。

1年間に5回程実施される。

 

受刑者にとって慰問はありがたいもので随分と癒された。

 

からいもの会、ペペ、シルバーストーンズ、

荒木音楽学校などが慰問に来て下さる。

 

想い出深い歌だったのだろうか受刑者の中には

歌を聴いて泣く者もいる。

 

受刑者達の素顔が垣間見える瞬間だ。

受刑者は映画やドラマを見て人目も憚らずに泣く者が多い。

 

からいもの会は全国の刑務所を回る。

若い人から年輩の方まで10名程で女性が中心だ。

 

刑務所には女性はいない。

塀の中にいると面会と慰問以外ではまず

女性にお目にかかることはない。

 

受刑者は歌も楽しみだが、

久々に女性を見ることができるとあって、

むしろそちらの方が楽しみになる。

 

若い女性が来るとなると3ヶ月も前からその話で持ちきりだ。

刑務所という所はとにかく話題に乏しい。

 

ペペという2人組も全国の刑務所を回っている

若くて美しい。慰問者の中では一番人気だ。

 

パンチラを期待して、ペペが来る時は工場成績を

少しでも上位にして前の席で見えるようにと、

全員が小票を切られないようにした。

 

減点の対象に気を配る、受刑者は何と単純なのか

工場一丸となって工場成績1位を取った。

 

一番前でペペを見た、よかった。

ペペが歌う「元気出せよ」という歌がある、励まされる。

 

 

なんといってもペペは美人だ、癒される、

鼻血を出す受刑者もいた。

 

本当は思い切り盛り上がりたいが、

看守に怒られるので静かにしている。

平成○○年までは拍手が禁止されていた。

 

ぺぺは、看守に

 

「“元気出せよ”とのところで、皆さんに握り拳を

頭の上に上げてもらっていいですか?」

 

とわざわざ尋ねてくれたにもかかわらず、

区長は手でバツを作る。

 

ダメだということだ。ペぺに失礼ではないか。

何か問題でもあるのか

 

平成〇〇年、女性歌手が慰問に来た。

名前は聞いたことがないが前評判では40代、

べっぴん、色っぽいという評判だ。

 

受刑者はすぐに知ったかぶりをして、いい加減な話をする。

 

刑務所では話題がないので、とにかく盛ればよいと思っている。

またその話はすぐに噂となって全工場に広まる。

 

そのような話はすべて看守がまき散らす。

交代担当は4工場を任されるので次の工場で

本当かどうかも分からない話を受刑者に言う。

 

受刑者は慰問の1カ月以上前から心密かに温める。

作業中でも

 

「慰問、べっぴんさんらしいがな!」

とこっそり不正交談をする。

挙手して交談許可まで取って慰問の話をする者までいる

 

慰問当日。受刑者たちは胸躍らせて体育館に向かう。

 

スキップで行きたいが怒られる。

 

体育館に集まるときは全員が入館するまで、

黙想を命ぜられ目を閉じていなければいけない。

 

ケンカ防止や知人に合図を送ったり、

受刑者はロクなことをしないからだ。

 

全員が体育館に入りいよいよ慰問が始まった、

幕が徐々に上がる。全員が舞台を凝視する、

 

そこに現れたのは巨漢のおばちゃんだ。

 

やられた、椅子からずり落ちる受刑者もいる。

 

「みなさん こんにちは、1曲目を聴いて下さい、

題名は〝なんでやねん〟」

 

と曲紹介をした。

 

“なんでやねん”、と言いたいのはワシらやと思った。

 

おばちゃんはステージで好き放題、暴れ始めた。

体育館に笑いの神様が舞い降り、爆笑の渦となった。

 

しかし歌はうまい、心にしみじみと響く。

 

その内に体育館はしんみりとして、みんなが静かに歌を聴き入った。

最後は拍手の渦で幕を閉じた。いい慰問だった。

 

慰問は受刑者を癒す。からいもの会の司会者は、

「次はババアですが辛抱して下さい」

と言う。ババアだろうが誰だろうが、いいではないか。

 

私たちを少しでも慰めようとわざわざ

刑務所まで来て下さっているのだ。

ありがたいことではないか。


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