刑務官という仕事は、受刑者が規則違反をしないか
監視することが仕事だ。
受刑者側からすると、睨みつけられているようなものなので、
どうしても看守に対して敵愾心を抱いてしまう。
刑務官は受刑者を、懲らしめるという正義感がどうしても出てしまう、
また受刑者になめられてはいけないという
感情が露わになり、つい偉そうにしてしまう。
ただ受刑者の動静を監視するだけだから暇でしょうがない。
だから受刑者を弄んで退屈を凌ぐという行為に及ぶ。
中らずといえども遠からずといったところだ。
大阪刑務所で悪い刑務官と言えば、N野、F嶋、N本だ。
N野は受刑者の間でランドセルと呼ばれている。
何故ランドセルかというと
N野は小学生ぐらいの身長しかないからだ。
N野は16工場という工場担当になり落ち着いたようだ。
16工場はほとんどが無期囚だ。
無期刑といえば一生刑務所の中で過ごすかというとそうでない。
30年近く務めて事故が無く、しっかりとした
身許引受人がいる場合は仮釈放が可能だ。
しかし、事故が無く、身許引受人もしっかりしていたとしても、
事件が社会に与えた影響や、被害者の感情などが
考慮され仮釈放を認められない場合もある。
無期刑の人間は仮釈放でしか出所できない。
仮釈放で出所して、また事件を起こすとまた
無期刑となり無期無期になる。
傷害事件や暴行といった小さな事件でも無期無期となる。
こうなると生きて娑婆の土を踏むことは難しい。
無期刑の人間は問題を起こすことが少ない。
たとえばマーガリンの不正授受で上がると
仮釈が5年間も延期される。
こんな工場で工場長をしているせいか
ランドセルという悪名は名を潜めている。
何度か話をしたことがあるが普通に喋っている時にも
目つきは刑務官独特の
いやらしい目つきをする。

F嶋も悪い刑務官といわれている。F嶋は親も刑務官だ。
刑務所に来て思ったことがある。
F嶋も昔は悪い刑務官ではなかったのではないかと思った。
B級刑務所に務める受刑者は本当に悪い。
悪い懲役がF嶋を悪くしたのではないかと思った。
実は私の後輩が大阪刑務所で看守をしている。
私より1つ歳下で、小学校の時に同じ少年野球チームに入っていた。
だからある程度の性格も知っている。
彼の兄も私より1つ歳、上で同じ少年野球部だった。
慰問の際に体育館で受刑者を叱りつけていた。
優しい性格で人に対して怒ったりするような少年ではなかった。
受刑者が今の彼を形成したように思う。
とにかく大阪刑務所の受刑者は悪い。
だから看守も自然にそうならざるを得ないのだろう。
N本も噂では悪い、悪いと聞かされていたが、本当に悪い。
大阪刑務所で一番悪い看守だと断言する。
背が低くて身長に対してコンプレックスを持っている。
顔は浅黒く如何にも悪そうだ。
この悪い看守が私たちの工場長となった。
受刑者に対し根深い虐めの傾向を持っており、
それは人格と結び付くほど強固なものとして形成されている。
受刑者を虐めることが仕事だと言い、
受刑者の苦痛に歪む顔を見るためなら
どんなに辛いことも耐えられるという。
正に筋金入りの看守なのだ。
こんな所に来る奴が悪い、
俺は二度と刑務所に来たくなくなるようにしてやっている、
という信念を持っている。
嫌がらせに関しては、天性の素質を持っている。
前の工場を辞任させられた原因は、あまりにも虐めが酷いので、
受刑者が担当台で唾を吐きかけたというものであった。
反省など微塵もない。
工場が変わっただけでN本の信念は曲がらない。
N本の意地が悪いので、受刑者達はなるべく
医務回診を申し出ないようにしている。
どんな嫌がらせを受けるか分からないからだ。
N本曰く、自己管理が出来ていないから
風邪を引くのだと言い、悪いのは、
お前だと悪者にされてしまう。

病人を労るという優しい気持ちは持ち合わせていない。
これでもかというぐらい、罵詈雑言を浴びせ倒してからでないと
医務回診を受け付けない。
いい加減、言い返したくなるが、言い返すと職員に
抗弁をしたとして懲罰になってしまう。
熱があっても我慢をして作業をしている者が多かった。
ある日、N本が業務出張で突然休みになった。
予定は以前から決まっていたが、
受刑者に休む事を知らせる必要はない。
この日、身体の調子の悪かった受刑者達が一斉に医務回診をつけた。
すると17名もの受刑者が臨休となった。
臨休とは臨時休業のことで作業免除となり横臥することを許可される。
因みに臨休に行けるのは体温が37,5℃を超えてからだ。
臨休に行くと熱発の者同士、一つの舎房に集められる。
他の工場からも熱発の者が来ており、同じ部屋になる。
身体はしんどいが他の工場の者と話せるので
情報交換をすることができる。
話題に乏しく、変化のない日常を送る受刑者は
些細なことでも歓喜する。
処方される薬は、小麦粉のようなもので効くのか
効かないのかよく分からない。
娑婆だと注射など、様々な治療法がある。
しかし刑務所では只管、寝るだけだ。
熱が38,5℃を超えた場合のみ座薬を処方してくれる。
熱が一週間、続こうが寝て治せというのが刑務所の基本的な方針だ。
刑務所では手遅れになる場合が住々にしてある。
刑務所では、おちおち、風邪も引いていられない。
N本の任期中に嫌がらせが原因で工場を出て行った
受刑者は100名以上に及ぶ。
たしかに刑務所が楽しい所であってはいけないが、
受刑者にも人権があることを忘れてはならない。
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