入院をしていたある日のことだ、

買い物に行こうとエレベーターで1階に降りた。

 

病院には花壇があり花壇は病棟から10メートルくらい

離れたところにあって

 

そこで花をむしっている女がいた。

ああ神様…どうかお許しください…

後姿しか見えない、ああ精神病院あるあるだなあと

思って横を通り過ぎていった。

 

暫くしてどんなブスが花壇を荒らしているのか

振り向いて顔を確認してやろうと思った。

 

よくみると可憐な乙女ではないか、

しかも別嬪だ。

 

踵を返すように戻って行って彼女に話しかけてみた

 

「何をしているの?」

すると彼女は

 

「枯れた花びらを取り除いて蕾に日が当たるようにしているの、

この方がお花さんにとってはいいのよ」

との答えが返ってきた、なるほど勉強になった

 

か細い声だが透き通るような清々さを感じた。

私は彼女ともっと話がしたくなりお茶に誘った。

 

病院でナンパをしてしまった、不謹慎な。

 

「ちょっとそこでお話をしない?」

私の入院していた病院は敷地の中に売店&喫茶店がある。

 

「はい、いいですよ」

と答えてくれた。

 

喫茶店では少し緊張した。

私には人見知りの傾向があり初対面の人とはうまく話せない。

彼女とは何故かうまく話が出来た。

 

彼女の病名(パニック障害)や年齢などを知ることもできた。

自宅も一駅しか離れていないことも知った。

 

私は彼女に親近感を抱いた。

 

彼女を見かけるたびにお茶に誘い

彼女はこんな私に付き合ってくれた

 

ある日、彼女ともう一人の女性とで食事に出かけた。

その帰りに私の自宅に立ち寄った。

 

私は彼女たちを母に紹介する中で

最初の女性はナオちゃんですと紹介し、

 

次に彼女のことは

 

「未来のお嫁さんです」

と紹介した。彼女たちは冗談だと思っていて笑ってくれた。

 

私だけが本気だった。

私は彼女との出会いを運命的な出会いだと感じていた。

 

彼女は何も感じなかったようだが、

これは運命だと教え諭した。

 

彼女の性格は天真爛漫ですごく素直だ、

擦れてないというか、

 

まず人を疑うことを知らない、聡明で口数も少ない、

正直だ、正直すぎて今の社会にはうまく馴染めない。

そんな性格だ。

 

しかし神様は見ている

 

私にとっては彼女こそが運命の女神で私の人生を

180度、変えてくれる存在になった。

 

交際をはじめてから4年になる、

粗野だった性格も矯正してくれた。

 

 

これまでの私は煽り運転をされれば、

その場で車を停車させ相手を車から引きずりおろしていた。

今では煽り運転をされれば左によって

停車して相手に抜かさせる、随分、寛容になった

 

歩きスマホにも腹が立っていた。しかし、今ではどうぞ勝手に

という思考回路になってきた

 

彼女と結婚すると決めた

 

結婚式をした、二人だけで厳かに行った。

 

本当は友人や知人、親、親戚などを招待して、

盛大に披露宴をしたかったが、それはやめて、

その代わりに新婦のお色直しを3回にしてスペシャルバージョンにした。

結婚式は新婦が主役だ

生活の方も今までのような淀んだ空気は存在しない

お日様が健やかに私を照らしてくれる。

空気は澄みきって呼吸に幸せを感じる

 

妻が聖書の勉強をしているので、私も僭越ながら少しずつ

聖書の勉強をしている。

 

こんな日が来るなんて思いもしなかった。

毎日が楽しい、充実している。

 

刑務所にいる夢を見ることがある。

現実に戻ってホッとする、夢で良かった。

 

しかし時折思うことがある、こんな私が幸せになってもいいのかと

もう昔の私ではないのだと。これからは新しい人生を生きると決意した。

 

付き合う友人も随分と変わってきた。

自然に悪い友達は淘汰されていった。

 

私が日々思ってきたことがある。男らしく生きたい。

そんな男を探して極道の世界に足を踏み入れた。

しかしそのような男は存在しなかった。

 

堅気の世界でもその部分は変わってない、

こちらの世界でも男らしく生きている人間がいることも知った。

また私がその手本となるように生きればよいのだと解釈した。

 

これからの私を見ていて欲しい。

あとどれだけ生きるかは、分からないが

男で生まれたからには男で死にたい。

 

自分に厳しく、人に優しい、そんな人になりたい

 

二人揃って誓いの言葉を読み合った。ピッタリと息は合っている

誓いのキスは妻の要望でホッペにチュとだけした。

 

次は指輪の交換だ。

私たちの場合は指輪の交換ではなく妻にだけ指輪を

贈るというものだった。

 

交際して一年目くらいの時に雑貨屋さんで

「結婚式は出来ないかもしれないけど、

この中から指輪を一つ選んでよ、それを結婚指輪にしようよ」

と言って彼女に買ってあげたものがある。

妻はその指輪を結婚式ではめてもらいたいと言った。

 

静寂の中、儀式は進行する

新幹線がトンネルを通過するように指輪は第一関節を通過した。

指輪は最後の関節である第二関節に差しかかった

突然、指輪はピタリと動きを止めた

 

違う、何かが違う…人生に一度しか無い晴れの舞台で…

サイズが違う…指輪のサイズではない…

 

指のサイズが違う

実は妻は結婚式の二ヶ月前ごろから過食気味になっていった。

 

妻曰く

 

「体形を変えたらいけないと思ったら、食べちゃったの」

と言う。ドレスもコルセットもお直しをした。

 

指輪交換の予行演習はしなかった。

想定外のアクシデントに見舞われた。

 

妻の顔を見てみると非常に困惑して引きつっている

 

私は神に祈りをこめて

 

「エィ」

と言って指輪を時計回りにねじ込んだ

 

指輪は見事に第二関節を通過した

 

「おめでとう」

と関係者から声が掛かった

 

神様は見ている