顔で判断するな

福嶋 (45)   常習窃盗   懲役3年

 

第一印象というものは大切なもので、

今後この人物とどのように係わっていくかを大きく左右する。

 

自分よりも大きい人には警戒心を抱くが、自分よりも小さい人には逆に

親近感さえ抱いてしまう。

 

人相においても同じく鬼瓦のような顔をした大きな顔の人よりも、

コアラのように可愛らしく小さな顔をした人に気を許してしまう。

 

このような点から考えると、福嶋という受刑者が犯罪を、犯すとは思えない。

身長は150センチそこそこで顔は小鹿のバンビちゃんのようで

最近のギャルが見たら「キャー超可愛いー」と言うだろう。

 

福嶋は空き巣が専門で刑務所務めは5回目だ。

福嶋の手口は団地の一階ばかりを狙って行う。

 

昼間、玄関をノックする、誰も出て来なければ団地の裏側に周り

ベランダから侵入するという手口だ。

 

ベランダはたいてい施錠していないという。もし施錠してあったとしても

ドライバーの柄でガラスを叩くとすぐに割れるらしい。

 

よじ登っている所を通りがかった人に見られたとしても

通報される確率が少ないという。

 

確かに見かけたところで住人が鍵を無くしたので

裏から部屋に入るとこるだと勝手に思い込んでしまう。

 

白昼堂々と盗みを働く者は少ない、

まして小鹿のバンビちゃんが空き巣だとは想像し難い。

 

福嶋は可愛い顔のおかげで刑務所でも得をする。

少年刑務所のカラオケ大会で福嶋は替え歌を披露した。

「教育部長の頭はハゲ頭、首席の頭もハゲ頭」

と全受刑者の前で歌ったそうだ。

 

福嶋は即、舞台から引きずり降ろされたのだが、

看守が誰かに脅されて歌わされたと疑って止まない。

福嶋は自分で考えてしましたと、本当のことを言うがなかなか信用してもらえない。

普通なら懲罰直行だが、福嶋の場合は叱責で済まされてしまう。

本人もそのところはよく心得ている。

 

ソフトボールが始まった頃、福嶋はソフトボールの

試合に負けるまで髭を剃らないと言いだした。

勝ち続けると福嶋の口の周りは真っ黒になっていく。

 

刑務所は話題が少ない世界だからこんなことでも楽しい。

いつ工場長が気づくだろうと全員で楽しんでいる。

 

福嶋の作業は金属に残るバリをグラインダーで

削り取っていく作業で、防塵マスクを着用している。

 

マスクを外しても、マスクの周りに鉄粉が付着して

髭のように見えるからなかなかバレない。

 

ソフトボールの試合で3回も勝ってしまった。福嶋は応援団長もしている。

福嶋の口の周りは真っ黒でまるで喜劇のドロボーのようになっている。

 

受刑者は髭を生やしたり、まゆ毛を剃ったり、

勝手に容姿を変えてはならないという規則がある。

 

ある日福嶋が担当台に呼ばれた。髭のことでN本に叱られている。

私の役席は担当台の隣だから何を言っているのかよく聞こえる。

 

「なぁ福嶋、ホンマのこと言うてみぃ」

「自分の考えです」

「誰かにしろと言われたやろぅ」

「いいえ…」

「そんなことお前がする訳がない」

「……。」

「もうええから次回、入浴の時に剃れよ」

とこれで終わりだ。他の者なら即取り調べになる。

 

福嶋は大阪拘置所ではちょっとした有名人だ。拘置所でも将棋はできる。

単に将棋をしてもおもしろくないので何かを賭ける。

お金のある者はお菓子や切手を賭けたりするが、お金のない者は賭ける物が

ないので、負けた場合は汁食器に1杯分の水を飲み干すという罰ゲームを賭けて将棋をする。

 

福嶋は1回負ける度に汁食器1杯分の水を飲み干していった。

拘置所の汁食器は刑務所よりやや小さいが満タンにすると普通の丼鉢1杯以上の水が入る。

 

福嶋は連続で負け続け、6杯…7杯…と、福嶋はとうとう10回目の負けを喫してしまった。

10杯目の水を飲み干してからは記憶が無くなり、

 

気が付くと福嶋のまわりに親族が集まっていたという。

病院に着いた時にはすでに危なかったらしい。

たかが水だと侮るなかれ。飲みすぎると生命の危険が生じるようだ。

 

この時も拘置所の看守に誰に飲まされたのか言ってみろと何度も聞かれたそうだ。

「自分で水を飲みました」

と言っても、福嶋が誰かを庇っているとしか思われない。

 

普通は自傷行為として懲罰20日は免れないが、この時も叱責で済んでいる。

 

見た目で得をする人もいれば、損をする人もいる。

私の知り合いに懲役ばかり行っているY姐さんという人がいる。

 

顔は決して別嬪とは言えない、どちらかといえば強面で、

沖縄のシーサーを彷彿させる。

 

しかし、心が美しい、面倒見がよい、かわいい小物もつくれる。

 

ある日Y姐さんがタクシーに乗った

 

「難波まで行ってちょうだい」

と言った。運転手は

 

「はい」

と言った。

 

しばらく、沈黙が続いたのでY姐さんは気を遣って

 

「今日は売上あったの?」

と優しく問いかけた。運転手は返事をしない…

 

しばらく走ると運転手が車から飛び降りた。ついた場所は警察署だった。

 

2名の警察官を伴いタクシーに戻ってきた。警官がY姐に言った。

「あんたこの人に売上なんぼあるねん、と言うたんか?」

と尋ねてくる。まるで強盗の容疑者扱いだ。

 

Y姐は心の中でこいつも顔で判断しよったと思うと

腹が立ってしょうがなかった

 

「私がいつ売上よこせと言うたんや!」

とついつい声を荒げて言ってしまった。運転手が

 

「ほら、怖いでっしゃろ」

と警官に言う。

 

Y姐はタクシーのドアを開けて、持っていた傘で運転手に殴り掛かった。

警官がすかさず止めに入った。傷害事件にならなくてよかった。

 

警察で事情を説明してすぐに帰してもらったが、帰りに疲れたので花壇に

腰をかけた。

 

 

Y姐は体がでかい分、臀部もでかい。どうやらお花を臀部で押し花にしていたようだ。

管理人らしき人物が出てきて

 

「きれいな花を、汚いおしりでぺしゃんこにして」

と汚いおしりということが何故わかるのか余計な一言だ。

 

Y姐は、また切れてしまい持っていた傘で管理人をしばきあげてしまった。

 

Y姐はこの事件で12回目の懲役を務めることになってしまった。

人を見た目で判断するな、顔は生まれつきだろ