工場成績 ②

工場長には、給料プラス、報奨金という形で

お金が給料に加算される仕組みになっている。

 

看守の給料というものには基本給があり、

交代担当、助務交代、助務、正担当と出世するほど

割り増しが多くなる。

 

 

工場を受け持つと給料は基本給の5割増しとなる。

工場長は工場成績によって毎月の給料が変わる。

 

工場成績が5位から3位までの間に入ると

基本給の6割増しとなる。

 

工場成績が2位までに入ると

基本給の7割増しとなる。

 

基本給が25万円だとすると工場成績が

1位または2位だと5万円も給料が増える事になる。

 

公務員は副業をすることを禁止されている。

N本は何年か前にマイホームを購入した。

 

N本からマイホームの自慢話を嫌というほど聞かされた。

N本は毎月の家の支払いがあって小遣いも少ないという。

 

どうにか工場成績を2位までに入れてほしいと

何度も頼まれたことがあった。

 

 

私たちの工場には金属製品のバリを取る作業があり、

グラインダーを使用しての作業であった。

私も半年間その役席で作業をしたことがある。

 

 

革の厚い手袋を着用し金属のバリを

削り取っていくという危険な作業だ。

 

脇見をすると手を削ることになる。

一日の作業を終える頃には、金属の粉で

身体じゅうが真っ黒になる。

 

下着などは毎月買い替えなければならない。

錆で黄色に変色するからだ。

 

防護メガネと防塵マスクを装着しての作業となる。

 

 

しかし防護メガネのほんの小さな隙間から

鉄の欠けらが入り目玉に突き刺さることが

頻繁に起こった、黒目の所に突き刺さるとかなり痛い。

 

工場長に報告すると怪訝な顔をされるだけだ。

班長がチリ紙を、こよりのようにして自分たちで取る

 

素人がするので目に傷が入るかも知れないという危険もある。

目は大切だ。

 

医務をつけると工場成績に影響を及ぼす。

工場で負傷すると無災害が飛ぶ。無災害は大減点に値する。

 

前の工場長ならどんな小さなケガでも

医務に連れて行ってくれたが、

 

N本の場合は工場成績が下がるので只管、

隠して医務に診せようとしない。

 

ある日、ラヒムというイラン人受刑者の

目に鉄の欠けらが突き刺さった。

 

 

班長が、こよりを作って取ろうとしたが取れない。

ラヒムは医務回診をつけた。

 

N本はその内に勝手に取れるだろうという安易な考えで

医務回診をつけさせずにラヒムを役席に追い返した。

 

一週間が経過した、ラヒムの目が真っ赤になっている、

酷く痛むらしい。

 

ラヒムが、また医務回診をつけた。N本は班長に、

 

「舎房でなったと言わせろ、そうすれば医務をつけてやる」

と言う。

 

舎房での怪我は、工場で起こった災害ではないので

工場成績に影響を及ぼさない

 

班長はラヒムに言うがラヒムも頑固だ。

何故嘘を言わなければならないのかと納得しない。

 

N本も頑固だ、割り増しがかかっている。

受刑者の身体より銭が大切だ。

 

2週間が経過した。ラヒムも舎房でなったとは言わない。

私はラヒムに、大使館宛に手紙を書けば

どうだろうかとアドバイスをした。

 

ラヒムは大使館宛に手紙を書いた。

 

次の日ラヒムは担当台に呼ばれ手紙の内容を聞かれている。

N本もおおよその見当がついているだけに

通訳を呼ぶわけにはいかない。

 

刑務所には通訳専門の者がいる。

格好は私服を着用している。

 

N本には家のローンがある。

どんなことをしても工場で負傷したとは

言わせないつもりだ。

 

結局N本は手紙を発信させないという作戦に出た。

よくあることだ。ラヒムの目は真っ赤に腫れ上がっている

 

「ワシからラヒムに話してみますわ」

と私はN本に言った。

 

ラヒムには工場の医務回診では舎房で

負傷したということにして、

 

刑務所の医務に行ったら工場で負傷したと

本当のことを言えと教えた。

 

「ラヒム納得してくれましたわ」

とN本に言った。するとN本は

 

「そうか、説得してくれたんか、ありがとう」

とお礼を言われた。

 

結果無災害は見事にぶっ飛んだ。

ラヒムは娑婆の眼科で治療を受け、

鉄の欠けらを除去してもらうことができた。

 

N本が処遇部長に怒られたかどうかは

知ったことではない。


コメント

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です