ケンカ ③

私には二歳年下の従弟がいるが、

懲役ばかりで娑婆にいることが少ない。

私の母親の姉の子供だ。

 

従弟は寝ている時に小机で顔面を殴打され

10針も縫うケガをした。

従弟はケンカがめっぽう弱い。しかし口は誰よりも達者だ。

刑務所で一番、嫌がられるタイプだ

 

大阪刑務所には、一般工場が25工場ほどあるが、

従弟は全ての工場を回って、もう行く工場がないと言われた。

こんなアホも珍しい。

 

従弟は、私のことを兄貴と呼ぶ、

兄貴と呼ぶなと何度言ったか分からない。

本人は生まれた時から舎弟だと言う、

運命だと思って受け入れるしかない。

 

従弟が、ケンカで勝ったという話を、

一度も聞いたことがない。たとえ途中まででもよいので、

攻撃を加えたという話を聞いてみたい。

聞くのは攻撃されたという、やられた話ばかりだ。

 

従弟と関わると、いつもろくなことがない、疫病神だ。

私は従弟のことをスカタンと呼んでいる。

 

初詣に行った時のことだ、組の代貸(舎弟頭)と

 

相談役と私と従弟とで屋台に入った。

ビール2本とおでん10品程を頼んだ。

私は先に勘定を済まそうと従弟に財布ごと預けた。

従弟は戻ってきて

 

「3万円でした」

と言った。

 

私は正月早々、初タコかと思った。

釣り銭をちょろまかすことをタコという。

 

しかし、こんなすぐにばれるような嘘をつくほどアホではない。

いくら正月でもあまりにも高すぎる。

 

私は従弟にここに居るようにと言って席を立った。

この屋台は某組織が経営しているテキヤの屋台だ。

ここを任されている責任者が組長の

実弟であることも知っている。

 

実弟の姿を見つけた。

 

「何で3万円や」

と言った。実弟は

 

「正月はこんなもんや」

と強気だ。一度、どつきまわさなければ、気が済まない

 

「ちょっと来い」

と裏に呼んだ。先を歩く私に、

 

いきなり後ろから殴りかかってきた。

こんな場面はよくあることで、隙を見せる方が悪い。

 

実弟のパンチを躱して、

強烈な右ストレートを顔面に叩き込んでやった。

 

崩れ落ちそうになるところを、蹴り上げ、

左右の脇腹にボディーブローを一発ずつお見舞いしてやった。

実弟は腹を押さえて地面に手をついた。

 

そこに相手の仲間と思われるテキヤ連中が

ゾロゾロと現れた。とその時、

 

「ここから先には行かせへんぞ」

と格好よく登場した男がいる。

来るなとあれほど言ったのに従弟の登場だ。

 

この事件が起きる3日程前に事務所で

従弟を少し鍛えてやろうと思い、

太股にローキックを軽くお見舞いしてやった。

 

この時、以外と太股に発達した筋肉があることを発見した。

聞くと中学時代にサッカー部にいたそうだ。

なるほど膝から上は一段盛り上がっており、

きっと強烈なキックを生み出すに違いないと思った。

私は従弟に、

 

「今度ケンカになった時には足を使え、

その足で蹴られたらたまらんな、

何で今まで足を使えへんかったんや」

と言って、ローキックの蹴り方を教えた。

 

従弟は単純だから、蹴り方を教わっただけで、

強くなったと、勘違いをしてしまう。

 

頭の中では、次から次へとすでに3,4人は

倒しているという場面を、想像している

 

生まれた時から知っているので、

頭の中で何を考えているのか見事に分かってしまう。

幸せな奴だ。

 

従弟は相手が多勢であろうと向かって行く、

引き下がると私に怒られるからだ。

登場すら願ってないのに、これ以上、

余計な真似をしてほしくない。

 

嫌な予感がした。

 

「オラッ」

と言って仲間のテキヤ連中の1人に、

いきなり回し蹴りをお見舞いした。

 

誰がそんな短い足で相手の頭部を狙えと言った。

ハイキックなど教えた覚えはない。

 

軸足は自然に地面から離れ、

体は踊るように宙を舞い地面に着地した。

 

サッカー部なのに何故か受身が上手い。

スカタンは何を考えたのか、そのままごろりと横に転がった。

 

また、嫌な予感がした。

転がった先には人間がすっぽりと入るほどの溝があった。

見事に納まっている、こんな仕事だけは完璧にこなす。

 

臍に木材が入るようにピタリと溝に嵌り、

頭の部分を足で踏みつけられている

 

人質完了といった様子だ。

 

「それ以上やったら知らんぞ」

と相手の仲間に言われた。

 

「このスカタン!」

と思わず叫んでしまった。

 

またケンカの足を引っ張りやがった。

そこに代貸や相談役が現れ、スカタンは代貸らに助け出された。

事情を知っている私は恥ずかしくて助ける気にならなかった。

 

相手の親分も来たがそれ以上の話にはならなかった。

帰る時、スカタンは安心したのか、

気を失うように後ろに倒れかかったので私が支えた。

 

格闘したのは私だ、疲れているのは私であってスカタンではない。

正月早々、見事な傾奇ぶりである。


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